■“アベノゴリン”とは先月8日の『朝日新聞』朝刊による造語です。
それからちょうど1ヵ月、日本時間今月8日未明のブエノスアイレスIOC総会では、自ら乗り込んだ安倍さんのプレゼンが東京招致実現に大きく貢献したとされており、期せずして、“アベノゴリン”とは正鵠を射た表現となりました。
プレゼンでは1964年10月の第1回東京オリンピックについて「開会式の情景がまざまざと蘇ります。一斉に放たれた何千という鳩。紺碧の空高く5つのジェット機が描いた五輪の輪。何もかも、わずか10歳だった私の目を見張らせるものでした」(『産経新聞』13.9.8-2:16)と回想がありましたが、それは12年3月5日配信のメルマガに既に「私は小学生でしたが、ブルーインパルスが大空に描いた五輪、兄と一緒に屋根から見た事、今でも憶えています」とあった、お馴染みのエピソード。
テレビ各局のブエノスアイレスからの中継映像には安倍さんのほか、五輪担当相を新たに兼任する方針となった下村文科相や中曽根前参院議員会長、河村選対委員長などの歴代文相・文科相経験者、文教系議員の遠藤元幹事長代理や馳国対副委員長、側近の世耕官房副長官や萩生田総裁特別補佐などが映されており、小池元総務会長が「五輪は安倍政権のチーム力で勝ち取った」(『朝日新聞』13.9.8-19:14)と賞賛したとおりの態勢でまさにあったと言えます。
しばしば指摘されるように、安倍さんの祖父の岸信介元首相は、1964年10月の第1回東京オリンピックの招致が決定した59年5月当時の首相として「招致の最高顧問」を務め、安倍さんも今次の「招致委員会の評議会最高顧問」の立場にありますが(『朝日新聞』13.8.8朝刊)、岸さんが戦後巣鴨プリズンでの幽囚の3年、安倍さんが第一次内閣退陣後雌伏の5年を経ていずれも復権、ともに総裁選での決戦投票を経験していることなどと同じように、五輪に纏わっても祖父と孫の不思議な巡り合わせが示されました。
山本沖縄・北方担当相は8日のブログ記事に「やっぱり、安倍首相には運気がある」と記していますが、その感想は多くの人が改めて噛みしめたことでしょう。
安倍さんを応援して結構長くなりますが、総裁、首相への復帰という奇蹟や衆参のねじれ解消、五輪招致成功などを果たした安倍さんはやはり、信じてついて行けば間違いない本物の政治家であるという確信はいよいよ強まります。
■その“アベノゴリン”こと第2回東京五輪はアベノミクス第3の矢「成長戦略」の新たな目玉とも、第4の矢とも位置づけられて、早くも経済再生の上での好材料と期待されています。
そして、経済再生の進捗と不可分なのが、来月1日にも正式表明されるという消費増税。
それは安倍さんの経済政策観とくに財政再建への意識に照らしても、実は十分想定できた結果でしょう。
アベノミクスの3本の矢「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」とは別に、経済政策一般については「財政出動」「財政再建(財政健全化)」「成長戦略」の3つの方針を挙げられますが、そのうち安倍さんが最重要視しているのが「成長戦略」であることは、アベノミクスにおいてそれが本丸と位置づけられていることや、輸出を重視して外需の取り込みを図るTPPの推進などに明らかでしょう。
また、小泉政権で活躍して構造改革を強力に主導した竹中元総務相を産業競争力会議の中心メンバーに迎えていることや、小泉、第一次安倍両政権を経た07年度のプライマリーバランスが、当時の円安環境による旺盛な輸出やアメリカ経済の好調を背景に、近年では最もよいマイナス6兆円にまで圧縮(明治大の飯田准教授の言う「2007年モデル」)されたのが、成長戦略の成功による税収の自然増に全くよるものであったことも、その重要な証左です。
そして、成長戦略と税収増がそのように密接に連関することは、消費増税という判断について看過できない要素であったと言えます。
すなわちそれは、安倍さんが成長戦略を最重要視することは、財政再建への意識が表裏一体としてあると言ってよいに違いないからです。
97年4月の消費増税が景気に与えたマイナスの影響が検証・懸念されたように、消費増税が実際の税収増に結びつくかは別であるとしても、成長戦略と財政再建の相関についてと、安倍さんの「財政再建への意識」については確認されねばなりません。
また、安倍さんは民主党政権期の消費増税法案の扱いに関連して「社会保障費の確保」に常に言及しており、それも財政再建と同じように、税率引き上げの判断の背景の一つとなったと考えられます。
さて、財政出動と財政再建そして成長戦略の距離感は、それぞれの財政規律との関係性によって測ることができ、それに近い順に、財政再建→成長戦略→財政出動と並べられるのは、明らかでしょう。
そしてそれらと財政規律との関係性を考えたとき、財政再建と成長戦略はそれを意識するという同類項で括れるのであり、それを損なう財政出動とは相互に峻別されることも明らかでしょう。
それは先に述べたように構造改革による成長戦略を追求した結果の「2007年モデル」(=財政の改善)や、成長戦略を最重要視する安倍さんが消費増税を判断したことに繋がりますが、それでは財政出動およびその性質からそれと同質的と言える金融緩和と、それらとは峻別される成長戦略とを混然と「三本の矢」とするアベノミクスは、どのように理解できるでしょうか。
前述の通り、第二次安倍政権によるアベノミクスの本丸は明らかに外需を意識した成長戦略なのであり、その点日本経済の中心は内需であるとの言説はアベノミクス論においてそもそも意味をなさないのは自明ですが、その成長戦略を阻むのが長く続くデフレなのであり、金融緩和と財政出動とは、成長戦略の実現可能な環境を整備するためのデフレ対策という対症療法に過ぎないのが浮かび上がってくるでしょう。
すなわち、アベノミクスについてのバラマキや放漫財政との批判や、それを単純なケインズ経済学と解するのは、アベノミクスの本質を見据えたものではないとすべきなのであり、また、安倍さんが元来いわゆる「小さな政府」志向で09年総選挙の際の民主党マニフェストをバラマキと痛烈に非難したことと、今のアベノミクスが、あらゆる点で矛盾するものでないことを理解できるでしょう。
しかし、その一方では金融緩和や財政出動の影響で、財政再建の必要性はアベノミクスの副作用的に高まっていることは事実とせざるを得ません。
すなわちアベノミクスには金融緩和と財政出動の存在によって、また先に検討したような安倍さんの意識とも連関して、財政再建を導くことが潜在的本質的にビルトインされていたと言ってよいのでしょう。
ところで一口に「財政出動」と言ってもそれは「財政再建」への意識の有無によって2つに細分できると言ってよいでしょう。
そしてそれについて好対照をなすのは、麻生副総理兼財務相と生活の党の小沢代表の経済政策ではないでしょうか。
すなわち麻生さんは首相当時の09年3月に定額給付金政策を主導し、小沢氏は09年の民主党マニフェストにおいて事業仕分けによる財源捻出を建前に子ども手当てなどのいわゆるバラマキ4Kを標榜したように、両者はともに経済政策として財政出動を重視するものの、財政再建に関して麻生さんが現在財務相としてそれを進めるのに対し、小沢氏は民主党時代に菅、野田両政権の増税志向に強く反発、09年マニフェストへの回帰を訴えて党を割っていることは両者の最も端的な相違です。
財政出動の穴埋めとしての財政再建を意識するのが言わば「真摯」であるとすれば、小沢氏の「財政再建への意識なきバラマキ」はいかにも小沢氏らしい選挙至上主義によるものかと思われますが、それが行き詰まっていることは明らかであり、財政出動や金融緩和の後には財政再建に取り組まねばならないことを直視しないのは「欺瞞」だと弾じざるを得ません。
その点、「事業仕分けによる財源捻出」も後述の「国債神話」も、同じまやかしであると言っていいのでしょう。
麻生さんは09年2月には財務相に、財政再建を重視して民主党の菅第二次改造内閣では無所属議員の立場で経済財政担当相として入閣する与謝野元官房長官を起用していますが、その際に麻生さんの見据えた税制論議こそ、民主党政権下で小沢氏が最高実力者であった鳩山内閣期には沈静したものの菅内閣期に具体的に浮上して今に至る消費増税の源流であると位置づけられます。
その点、麻生さんが現在税率引き上げの必要性を訴えていることは必然的なのであり、その経緯は今の税制論議について巨視的な視点を与えるものとなるでしょう。
さて、反増税と国際感覚のない大量の通貨供給・国債発行を同時に唱えてばかりいる「国債神話」が無責任かつ不誠実でもはや世界で通用しないことは、党で財政出動を主導する勢力と税率引き上げを主張する勢力が重なっていることに照らしても明らかだと言えます。
安倍さんは6月にまさに国際舞台であるG8直後にベルファストで会見して「経済再生と財政健全化の両立が必要だとし…消費税率の引き上げに関しては「国の信認を確保するためにも引き上げが決まっているものだ」」(ロイター、13.6.19-7:51)と発言していますが、それに示されたのは国際感覚と責任のある政治家によるリアリスティックな政治判断にほかならなかったでしょう。
ここで「国の信認」とは国債の大量発行などによる財政規律の悪化への懸念であるのは自明ですが、安倍さんは続けて「経済は生き物なので4、5、6月の数字をみて総合的に判断したいが、基本的には財政健全化に向けてしっかりと歩みを進めていきたい」と述べており、そこには、既に指摘した「安倍さんの財政再建への意識」と、ひいては「国債神話」に偏重しない姿勢が端的に表れています(9日発表の「4、5、6月」期の実質GDP改訂値は年率3.8%増と、速報値の2.6%から上方修正され、甘利経済再生担当相はそれを引き上げの「好材料」と指摘)。
元来消費増税に否定的であった竹中さんも8月31日の『朝まで生テレビ!』内で「政治のリアリズム」を説いて税率引き上げを容認する立場をとっていましたが、財政状況について、もはや近視眼的に日本一国の問題では済まない現実が直視されねばならないのでしょう。
また、党内で税調の野田元自治相や額賀元財務相といった長老重鎮が環境整備に当たっていることを看過できないのも、「政治のリアリズム」に含めてよいでしょう。
安倍さんが来年4月の消費税率引き上げの意向を固めたことで、自民党の経済政策はアベノミクス=成長戦略とデフレ対策としての財政出動に加えて財政再建が目指されることになって、全方位的になりました。
しかしそれは以前にも指摘したように、昨年7~9月にかけての党内の動きに既に兆していたと言うべきでしょう。
すなわち7月に二階総務会長代行が国土強靱化計画を発表、8月に当時総裁であった谷垣法相が消費増税法案の成立への協力を決定、9月に安倍さんが新成長戦略勉強会を勢力基盤の一つとして総裁に復帰していますが、それぞれ財政出動、財政再建、成長戦略を象徴するそれらが相次いで起こったことは、今の全方位的経済政策の素地であったと位置づけてよいのでしょう。
今回の税率引き上げの要諦は、それが元来は消費増税に慎重で成長戦略を重視する安倍さんによって判断された、という点にあるはずです。
すなわち、消費増税ありきであった民主党政権と元来が経済成長を追求してきた安倍さんとでは、財政再建と両立されねばならない成長戦略への取り組み方が違ってくるのは必然だからです。
消費増税への第二次安倍政権のスタンスが物語るのは、財政再建の高い必要性に直面する日本は国際感覚を持って「国債神話」を建前にした反増税論から厳に脱却すべきであることと、成長戦略を本質とするアベノミクスおよび財政健全化を意識する安倍さんの経済政策を、金融緩和と財政出動に惑わされて単純なケインズ的政策として牽強付会に曲解してはならないことに違いありません。
(R)
それからちょうど1ヵ月、日本時間今月8日未明のブエノスアイレスIOC総会では、自ら乗り込んだ安倍さんのプレゼンが東京招致実現に大きく貢献したとされており、期せずして、“アベノゴリン”とは正鵠を射た表現となりました。
プレゼンでは1964年10月の第1回東京オリンピックについて「開会式の情景がまざまざと蘇ります。一斉に放たれた何千という鳩。紺碧の空高く5つのジェット機が描いた五輪の輪。何もかも、わずか10歳だった私の目を見張らせるものでした」(『産経新聞』13.9.8-2:16)と回想がありましたが、それは12年3月5日配信のメルマガに既に「私は小学生でしたが、ブルーインパルスが大空に描いた五輪、兄と一緒に屋根から見た事、今でも憶えています」とあった、お馴染みのエピソード。
テレビ各局のブエノスアイレスからの中継映像には安倍さんのほか、五輪担当相を新たに兼任する方針となった下村文科相や中曽根前参院議員会長、河村選対委員長などの歴代文相・文科相経験者、文教系議員の遠藤元幹事長代理や馳国対副委員長、側近の世耕官房副長官や萩生田総裁特別補佐などが映されており、小池元総務会長が「五輪は安倍政権のチーム力で勝ち取った」(『朝日新聞』13.9.8-19:14)と賞賛したとおりの態勢でまさにあったと言えます。
しばしば指摘されるように、安倍さんの祖父の岸信介元首相は、1964年10月の第1回東京オリンピックの招致が決定した59年5月当時の首相として「招致の最高顧問」を務め、安倍さんも今次の「招致委員会の評議会最高顧問」の立場にありますが(『朝日新聞』13.8.8朝刊)、岸さんが戦後巣鴨プリズンでの幽囚の3年、安倍さんが第一次内閣退陣後雌伏の5年を経ていずれも復権、ともに総裁選での決戦投票を経験していることなどと同じように、五輪に纏わっても祖父と孫の不思議な巡り合わせが示されました。
山本沖縄・北方担当相は8日のブログ記事に「やっぱり、安倍首相には運気がある」と記していますが、その感想は多くの人が改めて噛みしめたことでしょう。
安倍さんを応援して結構長くなりますが、総裁、首相への復帰という奇蹟や衆参のねじれ解消、五輪招致成功などを果たした安倍さんはやはり、信じてついて行けば間違いない本物の政治家であるという確信はいよいよ強まります。
■その“アベノゴリン”こと第2回東京五輪はアベノミクス第3の矢「成長戦略」の新たな目玉とも、第4の矢とも位置づけられて、早くも経済再生の上での好材料と期待されています。
そして、経済再生の進捗と不可分なのが、来月1日にも正式表明されるという消費増税。
それは安倍さんの経済政策観とくに財政再建への意識に照らしても、実は十分想定できた結果でしょう。
アベノミクスの3本の矢「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」とは別に、経済政策一般については「財政出動」「財政再建(財政健全化)」「成長戦略」の3つの方針を挙げられますが、そのうち安倍さんが最重要視しているのが「成長戦略」であることは、アベノミクスにおいてそれが本丸と位置づけられていることや、輸出を重視して外需の取り込みを図るTPPの推進などに明らかでしょう。
また、小泉政権で活躍して構造改革を強力に主導した竹中元総務相を産業競争力会議の中心メンバーに迎えていることや、小泉、第一次安倍両政権を経た07年度のプライマリーバランスが、当時の円安環境による旺盛な輸出やアメリカ経済の好調を背景に、近年では最もよいマイナス6兆円にまで圧縮(明治大の飯田准教授の言う「2007年モデル」)されたのが、成長戦略の成功による税収の自然増に全くよるものであったことも、その重要な証左です。
そして、成長戦略と税収増がそのように密接に連関することは、消費増税という判断について看過できない要素であったと言えます。
すなわちそれは、安倍さんが成長戦略を最重要視することは、財政再建への意識が表裏一体としてあると言ってよいに違いないからです。
97年4月の消費増税が景気に与えたマイナスの影響が検証・懸念されたように、消費増税が実際の税収増に結びつくかは別であるとしても、成長戦略と財政再建の相関についてと、安倍さんの「財政再建への意識」については確認されねばなりません。
また、安倍さんは民主党政権期の消費増税法案の扱いに関連して「社会保障費の確保」に常に言及しており、それも財政再建と同じように、税率引き上げの判断の背景の一つとなったと考えられます。
さて、財政出動と財政再建そして成長戦略の距離感は、それぞれの財政規律との関係性によって測ることができ、それに近い順に、財政再建→成長戦略→財政出動と並べられるのは、明らかでしょう。
そしてそれらと財政規律との関係性を考えたとき、財政再建と成長戦略はそれを意識するという同類項で括れるのであり、それを損なう財政出動とは相互に峻別されることも明らかでしょう。
それは先に述べたように構造改革による成長戦略を追求した結果の「2007年モデル」(=財政の改善)や、成長戦略を最重要視する安倍さんが消費増税を判断したことに繋がりますが、それでは財政出動およびその性質からそれと同質的と言える金融緩和と、それらとは峻別される成長戦略とを混然と「三本の矢」とするアベノミクスは、どのように理解できるでしょうか。
前述の通り、第二次安倍政権によるアベノミクスの本丸は明らかに外需を意識した成長戦略なのであり、その点日本経済の中心は内需であるとの言説はアベノミクス論においてそもそも意味をなさないのは自明ですが、その成長戦略を阻むのが長く続くデフレなのであり、金融緩和と財政出動とは、成長戦略の実現可能な環境を整備するためのデフレ対策という対症療法に過ぎないのが浮かび上がってくるでしょう。
すなわち、アベノミクスについてのバラマキや放漫財政との批判や、それを単純なケインズ経済学と解するのは、アベノミクスの本質を見据えたものではないとすべきなのであり、また、安倍さんが元来いわゆる「小さな政府」志向で09年総選挙の際の民主党マニフェストをバラマキと痛烈に非難したことと、今のアベノミクスが、あらゆる点で矛盾するものでないことを理解できるでしょう。
しかし、その一方では金融緩和や財政出動の影響で、財政再建の必要性はアベノミクスの副作用的に高まっていることは事実とせざるを得ません。
すなわちアベノミクスには金融緩和と財政出動の存在によって、また先に検討したような安倍さんの意識とも連関して、財政再建を導くことが潜在的本質的にビルトインされていたと言ってよいのでしょう。
ところで一口に「財政出動」と言ってもそれは「財政再建」への意識の有無によって2つに細分できると言ってよいでしょう。
そしてそれについて好対照をなすのは、麻生副総理兼財務相と生活の党の小沢代表の経済政策ではないでしょうか。
すなわち麻生さんは首相当時の09年3月に定額給付金政策を主導し、小沢氏は09年の民主党マニフェストにおいて事業仕分けによる財源捻出を建前に子ども手当てなどのいわゆるバラマキ4Kを標榜したように、両者はともに経済政策として財政出動を重視するものの、財政再建に関して麻生さんが現在財務相としてそれを進めるのに対し、小沢氏は民主党時代に菅、野田両政権の増税志向に強く反発、09年マニフェストへの回帰を訴えて党を割っていることは両者の最も端的な相違です。
財政出動の穴埋めとしての財政再建を意識するのが言わば「真摯」であるとすれば、小沢氏の「財政再建への意識なきバラマキ」はいかにも小沢氏らしい選挙至上主義によるものかと思われますが、それが行き詰まっていることは明らかであり、財政出動や金融緩和の後には財政再建に取り組まねばならないことを直視しないのは「欺瞞」だと弾じざるを得ません。
その点、「事業仕分けによる財源捻出」も後述の「国債神話」も、同じまやかしであると言っていいのでしょう。
麻生さんは09年2月には財務相に、財政再建を重視して民主党の菅第二次改造内閣では無所属議員の立場で経済財政担当相として入閣する与謝野元官房長官を起用していますが、その際に麻生さんの見据えた税制論議こそ、民主党政権下で小沢氏が最高実力者であった鳩山内閣期には沈静したものの菅内閣期に具体的に浮上して今に至る消費増税の源流であると位置づけられます。
その点、麻生さんが現在税率引き上げの必要性を訴えていることは必然的なのであり、その経緯は今の税制論議について巨視的な視点を与えるものとなるでしょう。
さて、反増税と国際感覚のない大量の通貨供給・国債発行を同時に唱えてばかりいる「国債神話」が無責任かつ不誠実でもはや世界で通用しないことは、党で財政出動を主導する勢力と税率引き上げを主張する勢力が重なっていることに照らしても明らかだと言えます。
安倍さんは6月にまさに国際舞台であるG8直後にベルファストで会見して「経済再生と財政健全化の両立が必要だとし…消費税率の引き上げに関しては「国の信認を確保するためにも引き上げが決まっているものだ」」(ロイター、13.6.19-7:51)と発言していますが、それに示されたのは国際感覚と責任のある政治家によるリアリスティックな政治判断にほかならなかったでしょう。
ここで「国の信認」とは国債の大量発行などによる財政規律の悪化への懸念であるのは自明ですが、安倍さんは続けて「経済は生き物なので4、5、6月の数字をみて総合的に判断したいが、基本的には財政健全化に向けてしっかりと歩みを進めていきたい」と述べており、そこには、既に指摘した「安倍さんの財政再建への意識」と、ひいては「国債神話」に偏重しない姿勢が端的に表れています(9日発表の「4、5、6月」期の実質GDP改訂値は年率3.8%増と、速報値の2.6%から上方修正され、甘利経済再生担当相はそれを引き上げの「好材料」と指摘)。
元来消費増税に否定的であった竹中さんも8月31日の『朝まで生テレビ!』内で「政治のリアリズム」を説いて税率引き上げを容認する立場をとっていましたが、財政状況について、もはや近視眼的に日本一国の問題では済まない現実が直視されねばならないのでしょう。
また、党内で税調の野田元自治相や額賀元財務相といった長老重鎮が環境整備に当たっていることを看過できないのも、「政治のリアリズム」に含めてよいでしょう。
安倍さんが来年4月の消費税率引き上げの意向を固めたことで、自民党の経済政策はアベノミクス=成長戦略とデフレ対策としての財政出動に加えて財政再建が目指されることになって、全方位的になりました。
しかしそれは以前にも指摘したように、昨年7~9月にかけての党内の動きに既に兆していたと言うべきでしょう。
すなわち7月に二階総務会長代行が国土強靱化計画を発表、8月に当時総裁であった谷垣法相が消費増税法案の成立への協力を決定、9月に安倍さんが新成長戦略勉強会を勢力基盤の一つとして総裁に復帰していますが、それぞれ財政出動、財政再建、成長戦略を象徴するそれらが相次いで起こったことは、今の全方位的経済政策の素地であったと位置づけてよいのでしょう。
今回の税率引き上げの要諦は、それが元来は消費増税に慎重で成長戦略を重視する安倍さんによって判断された、という点にあるはずです。
すなわち、消費増税ありきであった民主党政権と元来が経済成長を追求してきた安倍さんとでは、財政再建と両立されねばならない成長戦略への取り組み方が違ってくるのは必然だからです。
消費増税への第二次安倍政権のスタンスが物語るのは、財政再建の高い必要性に直面する日本は国際感覚を持って「国債神話」を建前にした反増税論から厳に脱却すべきであることと、成長戦略を本質とするアベノミクスおよび財政健全化を意識する安倍さんの経済政策を、金融緩和と財政出動に惑わされて単純なケインズ的政策として牽強付会に曲解してはならないことに違いありません。
(R)